肛門外科について
検診での便潜血検査で陽性と判定された場合、肛門近くに発症する内痔核や切れ痔からの出血によるケースが見られます。しかし、痔のみを治しても、直腸より奥で発生したがんや炎症性腸疾患を見落としている場合があります。
当院では、便潜血陽性と判明した方や下血が見られた患者様は、基本的には大腸カメラ検査を受診するべきと考えています。また、痔の治療が必要な患者様には、日帰り手術や注射、内外用薬などの保険診療に対応しています。
専門医による内視鏡検査から肛門疾患の治療・手術まで幅広く対応していますが、当院では困難な手術などが必要な場合は、連携先の高度医療機関を速やかにご案内いたします。
肛門の構造
肛門付近にある静脈叢、外肛門括約筋、内肛門括約筋によって、肛門の弛緩・収縮の働きは制御されています。静脈叢には大量の毛細血管がメッシュのように広がっており、緩衝材のように機能して肛門をしっかりと閉じています。
肛門の表にある皮膚に連なる肛門上皮と奥の直腸粘膜は歯状線によって分けられています。歯状線には肛門陰窩と呼ばれる小さな凹みが一列になっており、肛門腺からの分泌物が排出されます。いぼ痔には内痔核と外痔核があり、内痔核は歯状線の内側にある直腸粘膜に発生し、外痔核は歯状線の外側にある肛門上皮から皮下に発生し、それぞれ治療法が異なります。また、歯状線にある肛門陰窩の肛門腺の出口に炎症が起きると肛門周囲膿瘍を発症し、悪化すると痔ろうになります。
スキンタグ
肛門付近に発生する皮膚のたるみをスキンタグと呼びます。年齢や性別に関係なく現れ、痔を併発することもあれば、痔そのものと間違えられることも多いです。肛門まわりのたるみにお悩みの場合は遠慮なくご相談ください。
痔の種類
痔は、いぼ痔(内痔核、外痔核)、切れ痔、痔ろうの3つに大別されます。
いぼ痔(痔核)
痔の中で特に多いタイプです。いぼ痔とは、排便時のいきみなどで肛門に負荷がかかることで、肛門付近で緩衝材の機能を持つ静脈叢の毛細血管がうっ血して腫脹した状態です。
痔核が悪化する要因として、便秘、下痢、妊娠・出産、冷え、アルコールの過量摂取、唐辛子などの強い刺激物を摂取し過ぎることなどが挙げられます。いぼ痔は内痔核と外痔核に分けられ、内痔核は歯状線の内側にある直腸部分に発生し、外痔核は外側にある皮膚に覆われた部分に発生します。外痔核は痛みを感じる知覚神経が走っている部位に発生するため、血栓(血の塊)ができて大きく腫れたら痛みを伴います。一方、内痔核は粘膜に発生するので痛みが出現することが稀ですが、排便時に脱肛(痔核の脱出)や出血が見られます。
まずは問診と診察を行い、患者様に合わせて的確な治療方針をご提案し、内外用薬や注射を用いた治療、根治手術などを行います。
切れ痔(裂肛)
肛門上皮が裂けたり切れたりする疾患です。便秘で硬くなった便が排泄される時に傷ついて発症することが多いですが、下痢による刺激で切れる場合もあります。激しい痛みが現れますが、浅い傷の場合はそれほど長続きしません。しかし、繰り返し切れることで傷跡が瘢痕化・潰瘍化し深くなると、便が出た後も痛みが非常に長続きするようになります。また、瘢痕化や潰瘍化により肛門が狭くなって肛門ポリープが発生したり、便が出る時に肛門がさらに切れやすくなり、悪循環となります。早い段階であればお薬で簡単に治療できますが、便秘や下痢が起きていると何度も再発して増悪しやすいため、便通異常も並行して改善させることで再発を防ぎます。肛門ポリープが発生した場合には手術を検討しますが、日帰り手術で対応できる場合が多いです。お仕事や生活に影響を出さずに手術を行えるため、できるだけ速やかにご相談ください。
痔ろう(あな痔)
痔ろうの始まりは歯状線にある肛門陰窩に菌が侵入して感染・炎症が起こり、膿がたまる肛門周囲膿瘍という状態です。肛門周囲膿瘍を発症すると、貯留した膿が外に出ようと肛門付近の組織中にトンネルを掘り進めて行きますが、この際に発熱、腫脹、痛みなどの症状が現れます。トンネルが肛門付近の皮膚に到達して穴ができると、膿が排出されてトンネルが完成します。これが痔ろうです。膿が外に出ると発熱や痛みがなくなりますが、痔ろうのトンネルは自然と治らないので手術を行わなければいけません。そのままにしてしまうと、炎症が何度も起こりトンネルが複雑化してしまうこともあり、痔ろうからがんに繋がる場合もまれにあります。また、難治性痔ろうはクローン病と関わっているケースがあります。肛門疾患は放っておかず、専門医に速やかにご相談ください。
肛門の日帰り手術
当院ではお尻の日帰り手術に対応しています。
入院困難な方、幼いお子様や介護、ペットのお世話などで長期間家を空けられない方、お仕事で忙しい方などにお勧めの治療法です。
いぼ痔、切れ痔、痔ろうなどの肛門疾患を根本的に治す手術は、これまでは入院する必要がありました。しかし、お薬や手術手法が発展したことで、日帰り手術で対応できるようになりました。
術後、日常生活のリズムを乱すことなく自宅でお過ごしいただけますので、余計なストレスがなく安静を保つことができます。
入院費がかかりませんので、経済的メリットも大きいです。
麻酔について
局所麻酔と静脈麻酔を用いて、ウトウトしている間に手術を行います。
静脈麻酔では点滴から眠気を誘うお薬を注入し、お薬が効いてきたことを確認した後に肛門に局所麻酔の注射を行います。これによりウトウトしている間に手術が終了し、手術後の痛みが軽減されます。
日帰り手術の流れ(予約・前日・当日・帰宅後)
1手術予約
- 医師の診察後、手術が必要と判断されたら予約を取っていただきます。
- 手術の内容により術後数日から1週間程度自宅療養が必要な場合がありますので、ご都合がつく日程で予約をお取りください。
- 安全に日帰り手術を行うことができることを確認するため、血液検査を受けていただきます。半年以内の他院での採血結果や検診の結果などがあれば参考にしたいのでご持参ください。
- 普段から内服されているお薬を確認します。事前に休薬が必要なお薬や、当日必ず内服していただきたいお薬などがありますので、お薬手帳がある方は必ずお持ちください。
2手術前日
- 前日の食事制限は特にありません。
- 常用の内服は、予約時の説明どおりでお願いいたします。
- 21時にピンク色の下剤を3錠お飲みください。
- お茶やスポーツドリンク、お水は夜もお飲みいただけます。
3手術当日
手術前
朝食は軽くお召し上がりください。
常用の内服は、予約時の説明どおりでお願いいたします。
事前に休薬するように言われた薬(血がさらさらになる薬など)は内服しないでください。
- 予約時間までにお越しいただき、診察券を提出して受付を済ませてください。
※ご自身でお車やバイク、自転車を運転してのご来院は避けてください。 - その後、手術着を着て点滴を実施します。
手術
- 手術室で横向きの軽く膝を曲げる姿勢(Abelの体位)になり、麻酔を開始します。
- 手術は15分から30分程度で終わりますが、その後はリカバリースペースで約1時間休憩していただきます。
手術後
- 診察室にて再度医師が診察を行い、手術の内容・結果をお伝えします。
- 手術後の下剤や痛み止めなどのお薬、傷の処置方法、日常生活での注意点などについてお伝えします。
4帰宅から完治するまで
- ご帰宅された後は可能な限りゆっくりとお休みください。
- 術後、手術の内容により数日から1週間程度自宅療養が必要な場合があります。いきんだり激しい運動は控えましょう。日帰り手術といえども少量の血が出たり痛みが現れたりするため、無理のない範囲で過ごしてください。
- 術後1週間以内に一度ご来院いただいて、創部のチェックをします。その後は10日から2週間に1回程度ご来院いただき、約1ヶ月から2ヶ月で完治します。
手術後の生活で気をつけるべきこと
お尻の手術を行なった後に痛みや出血を起こさないために、以下のような行動は避けましょう。
- 長時間、自転車や車を運転すること
- 出張や旅行(万が一の場合に当院で対応できません)
- 激しい運動や力仕事
手術後の入浴について
手術後当日よりシャワー、翌日よりお風呂に入れます。
入浴は、手術部位を温めて血の巡りを良くして、患部を綺麗にしたり痛みを抑えたりする効果があります。
手術後の食事について
患部に負荷がかからないように、1日1回以上排便することが大切です。そのため、手術後1週間は繊維質や脂肪分が少ないもの、消化しやすいものを食べ、その後は普段の食事に徐々に変えていくのがお勧めです。
お酒を飲むことで下痢になったり、血の巡りが良くなって出血したりする可能性があるので、約2週間は飲酒を避けましょう。
日帰り手術の注意点
当院は手術の効率化に取り組み、入院手術と同程度の根治性がある手術を行なっています。
しかし、手術後のお尻のケアはご自宅にて患者様自身でしていただかなくてはいけません。
手術後の痛みへの対応や便の出し方などはご自身で調整していただきますが、普段の生活の過ごし方やお尻のケアの方法などはしっかりとお伝えします。お気軽に当院までご相談ください。